第87章

電話を切り、鷹司蓮矢は振り向いて日向雫を見た。

事情を説明しようと口を開きかけた、その瞬間――雫がすっと手を上げ、掌を彼に向けて制した。言葉を、そこで止めろと言わんばかりに。

その目は、恐ろしいほど静かだった。怒りも非難もない。ただ、枯れた荒野のような、生気のない静けさだけがあった。

「鷹司蓮矢。今日、あなたがこの家の玄関を出たら――もう、やり直しなんてないわ」

蓮矢の目が沈み、眉間に深い皺が刻まれる。

「日向雫、会社の用件だ」

会社?

雫の胃の底から、むかつくような吐き気がせり上がってきた。喉元まで一気に押し寄せる。

私用を会社のことにすり替える、その薄っぺらい偽善が――生...

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