第89章

日向雫の問いは、いちばん生々しい利害の急所を突いた。

もし彼女が落札すれば、鷹司グループが何年もかけて準備してきた拡張計画は棚上げを余儀なくされる。さらに、億単位の大型案件も、そのまま他社へ流れる。

鷹司蓮矢にとっては――いちばん近い人間に、背中から刃を入れられるのと同じだった。

蓮矢は目を伏せ、瞳の奥に沈んだ影を落とす。

無意識にマウスの縁を指先でなぞりながら、心の中では坂本時佐を何度も何度も罵っていた。

最初から悪意がある。

商売の競り合いを利用して、夫婦の仲に楔を打ち込むつもりだ。

だが、その苛立ちを雫の前で見せることはしなかった。

蓮矢はゆっくりマウスから手を離すと、...

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