第8章

ツン、と鼻をつく消毒液の匂い。ICUに響く機械の規則的なビープ音はカウントダウンのように聞こえ、その一つ一つが私の心臓を打ち付けた。

直人は病室の入り口で立ち止まった。「美香は先に入って。俺は外で待ってるから」

優しい声だった。この人は、一番辛いであろう瞬間にさえ、私にそっと距離をくれる。

人工呼吸器と心電図モニターの作動音だけが響く静かな部屋。隆二は、真っ白なベッドの上で紙のように青白くなっていた。

足音に気づいたのか、彼は必死に目を開けようとした。かつては深くて輝いていた瞳は充血していたが、私を視界に捉えた瞬間、苦笑を浮かべた。

「先生は、なんて?」ベッドのそばに腰掛...

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