第130章 目を覚まさないほうがいい

夏目千尋はまだ動悸が収まらず、服の裾をぎゅっと握りしめたまま、声を出せなかった。

「三上奈菜が来るって言ってた」

神崎雅臣が付け足す。

その名前を聞いた瞬間、張りつめていた神経がすっと緩む。

――三上奈菜と間違えられたんだ。

千尋は腰を折り、絨毯に落ちていた書類袋を拾い上げる。表面の埃を軽く払ってから、両手で差し出した。

「神崎社長、こちら盛天の追加資料です。ご確認いただいて、問題なければ失礼します」

神崎雅臣は受け取らない。

伏せたままの視線が、青白いのに平静を装う彼女の顔をなぞり、腫れて皮の剥けた唇、そして襟元から覗く赤い痕へと滑った。

「なんでこの案件、続けない」不意...

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