第153章 行くな

夏目千尋は、ようやく息をついた。

――もう、見逃してくれるのかと思った。

けれど次の瞬間、神崎雅臣がまた覆いかぶさってくる。

何の前触れもなく、唇を乱暴に塞がれた。

容赦のない力に、千尋は痛みで眉を寄せ、喉の奥で小さく呻く。

舌先が強引に唇をなぞり、挑発するみたいに一度だけ深く押し込まれて――それから、ふっと離れた。

近すぎる距離。絡み合う吐息。

「三上隼人に触らせるな」

掠れた声。警告の色が濃い。

夏目千尋の胸が上下する。

今ここで逆らって、火に油を注ぐ気にはなれない。彼女は黙って、小さく頷いた。

そのとき。

狭い雑物置き場に、場違いな着信音が鳴り響いた。

バッグ...

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