第19章 離婚しないよう引き延ばす策

午後5時、夏目千尋のスマホが鳴った。発信者は夏目博夫。

「千尋、今日は戻ってきて飯でも食え。家族みんなで、しばらく揃ってなかっただろ」

受話口の向こうの声は、わざとらしいほど穏やかだった。

けれど千尋は、スマホを握ったまま黙っていた。

この家の性質を、彼女は嫌というほど知っている。呼び戻すときは、決まってろくでもない用件だ。

家族全員で食卓を囲んだ最後は――三年前、神崎家へ嫁げと追い立てられたとき。

それでも、行くしかなかった。

母の遺品が、あの人たちの手の中にある。千尋にできるのは、飲み込むことだけ。

夏目家の邸宅のダイニングは、眩しいほど明るかった。長いテーブルには料理が...

ログインして続きを読む