第30章 負けたが、勝ってもいた

彼は、この女が負けると分かっていた。にもかかわらず――なぜか胸の奥がざわつく。

卓に伏せられたままの伏せ札を、視線が釘づけにする。ごくり、と喉仏が上下した。

「ほら、めくれよ」

会場中の視線が、その一枚に集まっていた。

神崎雅臣は眉間に深い皺を刻む。見てみたいじゃないか。この女が、いったい何をしでかすのか。

夏目千尋は指先で伏せ札の角をつまみ、ゆっくりと返した。

――しん。

音が、消えた。

夏目千尋の伏せ札は……真っ白だった。

絵柄も数字もない。汚れひとつない白紙みたいなカードが、緑のフェルトの上に、あからさまに横たわっている。

神崎雅臣の眉が、わずかに上がる。瞳の奥に、...

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