第71章 想定外

夜10時を少し回った頃、夏目千尋は全身に疲れを引きずったまま、新居の扉を押し開けた。

玄関灯は点いている。靴を脱ごうとして、そこでふと違和感に気づいた。

下駄箱の脇に、見慣れない男物の革靴が一足。

黒で、磨き上げられていて埃ひとつない。サイズも彼女より何段階も大きい。

夏目千尋の手が、宙で止まった。

反応する間もなく、キッチンのほうから上村さんが半身だけ覗き、必死に目配せをしてくる。唇が動くのに、声は出さない。

千尋は鞄を置き、音を殺して近づいた。

「どうしたの?」小声で訊く。

上村さんは彼女の腕を引いてキッチンへ退き、冷蔵庫にもたれた。片手で胸を押さえ、もう片方で二階を指さ...

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