第76章 閉じ込められた

三上隼人はワイングラスを持った手を、宙で固まらせた。

「……誰だって?」

聞き間違いだと思ったのだろう。

「神崎雅臣」夏目千尋はもう一度、淡々と繰り返す。

三上隼人はグラスを乱暴にテーブルへ置いた。

千尋を見据えたまま、ふっと短く笑う。可笑しみというより、荒唐無稽だと言わんばかりの笑いだった。

「アンナ、冗談にしちゃデカすぎる」椅子の背にもたれ、片眉を上げる。「さっき入口で会っただろ。挨拶ひとつしなかったくせに。今さら『夫です』って?」

夏目千尋は背もたれに身を預けたまま、表情ひとつ変えない。

「隠し婚」吐き捨てるように言う。「神崎家はしきたりが多いの。表に出せない」

三上...

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