第79章 何だかおかしい

その二文字が耳に落ちた瞬間、汐見千由美はその場で凍りついた。

口を開きかけて――けれど、声にならない。

必死に貼りつけていたか弱い笑みが、ぱきぱきと音を立てて崩れていく。

もう神崎雅臣は、彼女を見ていなかった。

身を屈めて車に乗り込み、ドアが乱暴にバンと閉まる。

エンジンがかかり、黒い車はバックで区画から抜けると、迷いなく出口へ向かって走り去った。

汐見千由美の手だけが、宙に取り残される。

ゆっくり下ろした指先が、掌へ深く食い込んだ。

――一秒だって、余計に見たくない。

冷たいとか、素っ気ないとか、そういう次元じゃない。

あれは、嫌悪だった。

がらんとした駐車場に立ち尽...

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