第83章 逃げ場はない

夏目千尋は道端に座り込み、脚が痺れるほど待っていた。

時間を計算すれば、葉山心菜はもう帰った頃だろう。

千尋がリードを軽く引くと、キャンディーが「くぅん」と鼻を鳴らし、地面から起き上がる。

一人と一匹は来た道を戻り、御英レジデンスへ向かった。

団地の門をくぐった、その瞬間だった。

カーブの陰から黒い車が飛び出してくる。

耳をつんざくエンジン音。速度もやたらと速い。

夏目千尋は反射的に身をかわそうとした――が。

捻挫した足首に力が入らないことを、忘れていた。

ぐにゃり、と足元が崩れ、彼女はコンクリートに叩きつけられるように転ぶ。

膝は擦りむけ、足首には裂けるような鈍い痛みが...

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