第90章 入浴しているのを見た

夏目千尋は、ひどく深い眠りに落ちていた。

どれくらい経ったのかも分からない。薄暗闇の中で、ふいに目を開ける。

スイートは静まり返っていて、聞こえるのは空調が吐き出すかすかな風の音だけ。

身体が、妙にあたたかい。

見下ろすと、濃いグレーの仕立てのいいスーツジャケットが一枚、肩からずり落ちかけていた。布地には、冷えた木の香りが残っている。

神崎雅臣の匂いだ。

夏目千尋は数秒固まり、勢いよく上体を起こした。

――私、神崎雅臣のスイートで寝てたの?

しかも、彼の上着を掛けられたまま。

慌ててスマホを確認する。20時半。

四時間も眠っていたらしい。

ローテーブルの救急箱はきれいに...

ログインして続きを読む