第163章

車が路肩に停まる。立花柚月が降り立つと、目の前には高いビルがそびえ立っていた。看板にはラジオ局の名前が記されている。

「何しにこんなところへ?」

西園寺蓮は目を覚ましたばかりの沙耶の手を引いて車を降り、ビルを見上げて少しの間、物思いにふけった。

「俺は以前、ここで配信者をやっていたんだ」

「え?」

立花柚月には想像もつかなかった。彼がマイクに向かう姿など。

驚きのあまり開いたままの彼女の口を、西園寺蓮は優しく閉じてやる。

「大学時代、よくバイトで来ていたのさ」

「実家からの仕送りは?」

「祖父の教育方針だ。『自分の食い扶持は自分で稼げ』とな」

平静な口調の中に、微かな自嘲...

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