第3章

立花柚月の冷徹な眼差しを受け、黒田大河の脳裏に何らかの光景がフラッシュバックした。心臓が鷲掴みにされたような痛みが走る。

彼女の言っていることは、本当なのか?

彼が口を開きかけたその時、園田麻衣が突然前に進み出て、黒田大河の視界を遮った。

「柚月さん、ここに至ってまだ白を黒と言いくるめて、大河さんを汚すつもりですか? よくそんな酷いことができますね」

立花柚月は長身で、目鼻立ちは洗練され、華やかだった。顔に傷を負う前は、その一挙手一投足が鮮烈な魅力を放っていたものだ。

対する園田麻衣は、小柄で清楚な、いわゆる守ってあげたくなるタイプの容姿をしている。

純白のロングスカートが風に舞う。彼女は柳のように儚げで可憐な姿を装いながらも、両手を広げて背の高い男をしっかりと背後に庇っていた。

黒田大河は一瞬抱いた疑念を即座に捨て去り、愛おしそうに彼女の肩を抱いた。

「麻衣、こんなどうしようもない女に何を言う必要がある」

立花柚月は冷笑を漏らすと、二人には目もくれず、人垣をかき分けて外へ向かった。

「言うべきことは全部言ったわ。そこをどいて」

「えっ? 立花様! 立花様!」

「ふん! 悪評まみれのくせに、何を威張り散らしてるんだか」

周囲はそう罵りながらも、さすがに実力行使で引き止める度胸はなく、道を開けた。

人が散っていくのを見て、園田麻衣が不意に駆け寄り、立花柚月を引き留めた。

「柚月さん、聞いてください……」

「あなたと話すことなんてないわ。どいて!」

立花柚月がその手を払いのけ、避けて通ろうとした瞬間。

園田麻衣が悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。

「立花柚月!」

黒田大河は立花柚月を激しく睨みつけると、大急ぎで駆け寄り、園田麻衣を抱き起こした。

「大丈夫か?」

園田麻衣は立花柚月をちらりと見やり、痛みに顔を歪めながらも、赤い目をして彼を気遣った。

「心配しないで、私なら平気……」

黒田大河は彼女の腹部を優しく撫でると、冷ややかな表情で彼女を抱き上げ、近くのベンチに座らせた。そして踵を返し、大股で立花柚月に詰め寄った。

「自分が思っているほど汚れていないと言ったな。だが、今の行動は何だ? 妊婦相手によくもそんな真似ができるな」

「あんた、目が節穴なの!? 軽く払っただけで、あんな派手にひっくり返るわけないでしょ! どう見てもわざと……」

言い終わらないうちに、手首を掴まれた。

黒田大河は顔をどす黒くして、無理やり彼女を園田麻衣の目の前まで引きずっていった。

「麻衣に謝れ!」

怒号が耳元で炸裂し、立花柚月の鼓膜がキーンと鳴った。

周囲のメディアはここぞとばかりにカメラを構え、顔のアップを狙って殺到してくる。

無数のフラッシュが瞬く中、彼女は目眩を覚え、よろめいて倒れそうになった。

次の瞬間、大きな手が彼女を支えた。

立花柚月が顔を上げると、そこには西園寺蓮の涼やかな顔があった。

直後、十数人の黒いスーツの男たちが雪崩れ込み、興奮して叫び声を上げ、罵詈雑言を浴びせるメディアを遮った。

「西園寺様、あなた……」

立花柚月は唇を噛み、ため息をついた。

「はぁ……あなたが表に出るべきじゃなかったのに」

西園寺蓮は表情一つ変えず、群衆へと視線を向けた。

「後日、この件に関して記者会見を開く。だが今は、メディア人としての良識に従い、虚偽の記録および関連映像をすべて削除してもらいたい!」

映画帝王としての地位以前に、西園寺家の跡取りという肩書きだけで、帝都の社交界を震え上がらせるには十分すぎる。

メディアたちは抵抗する術もなく、ボディガードたちがフィルムや手書きのメモを処分するのを黙って見ているしかなかった。

立花柚月は西園寺蓮に守られて車に乗り込み、ようやく冷静になって今後のことを考える時間を得た。

翔に「どこの馬の骨とも知れない子」という汚名を着せるわけにはいかない。自分が不貞を働いたのではなく、黒田大河こそが心変わりをしたのだと、世間に証明しなければならないのだ。

……

西園寺邸は都心の一等地にある高級住宅街に位置する、三階建ての洋館だった。

玄関を入るなり、初老の女性が笑顔で出迎えた。

「坊ちゃん、こちらは……」

「立花様だ」

「立花様、こんにちは。どうぞ、中へお入りください」

家政婦の山口は西園寺家に長く仕える古株だ。西園寺蓮を三十年近く世話してきたが、彼が女性を家に連れてくるのは初めてのことで、嬉しさを隠せない様子だった。

立花柚月をリビングまで案内する。

「立花様、どうぞお掛けください」

お茶を淹れ、果物を切り……山口は甲斐甲斐しく動き回った。

頃合いを見て、彼女は尋ねた。

「坊ちゃん、お昼は家で召し上がりますか? ご用意しましょうか?」

「ああ」

山口が厨房へと向かう背中を見て、立花柚月も立ち上がり、その後を追った。

「私、手伝います」

彼らが席を外すとすぐ、来客があった。

西園寺蓮の秘書、七社和也だ。

彼は恭しく西園寺蓮の前に立った。

「西園寺社長、ご指示の件、調査が完了しました。彼女は間違いなく、当時囲われていた園田麻衣本人です」

西園寺蓮は園田麻衣を一目見た時から、既視感を覚えていた。

やはり予想通りだった。

「それから、こちらも」

七社和也は写真の束を西園寺蓮に手渡した。

「黒田大河以外にも、三人の男が園田麻衣と親密な関係にあります」

写真に写っているのは、園田麻衣が他の男と睦み合う様子ばかりだ。

念入りに厚化粧を施し、男に媚びるような表情を見せる彼女は、黒田大河の傍で見せる清純で儚げな姿とはまるで別人のようだった。

西園寺蓮は二、三枚めくると、唇の端を冷たく歪めた。

写真を七社和也に返すと、まるで汚らわしいものに触れたかのように、ウェットティッシュを取り出して指を入念に拭いた。

「実に興味深い写真だ。この園田さんにも一部送って差し上げろ」

立花柚月が厨房から戻ってくるのを見て、彼は話題を変えた。

「明日、記者会見を開く。手配を頼む」

明日?

立花柚月は西園寺蓮がこれほど早く策を講じるとは思わず、思わず尋ねた。

「どうするつもりなの?」

「真実を話す」

西園寺蓮は淡々と言った。

「黒田大河が長年にわたり不貞を働いており、君たちの結婚生活はとうに形骸化していたこと。そして、彼が我が子の命を顧みず、適合結果を捏造したこと。すべて公表する」

それを聞き、立花柚月の瞳に灯りかけた希望の光が、再び消え入った。

ただ口で言うだけで誰もが信じてくれるなら、今のように自らの潔白を証明できない蟻地獄に陥ることはなかっただろう。

「誰も信じないわ」

立花柚月は力なく言った。

「我々が言っても、世間は信じないだろうな」

彼は言葉を切り、不思議そうに見つめる立花柚月に対し、意味深長に告げた。

「奴らが何をしてきたか、奴ら自身の口から語らせるんだ」

奴らとは、黒田大河と園田麻衣のことか?

事態をここまで悪化させた元凶はあの二人だ。

彼らが自ら進んで彼女のために潔白を証明するはずがない。

「冗談でしょう」

立花柚月がそう言った直後、テーブルの上に置いてあった西園寺蓮のスマホが突然鳴り響いた。

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