第96章

真新しいマンションだった。

決して広くはないが、生活に必要なものはすべて揃っており、家具も完備されている。

部屋には花束まで置かれていた。

母が一番好きな白百合だ。

惜しむらくは、花がすでに枯れてしまっていることだろう。

立花紫苑は慈しむように、部屋の隅々までそっと触れた。

テーブルの角、ソファ、家具の色合いからデザインに至るまで、すべてが彼女の好みに合わせて選ばれている。

彼女には分かっていた。それができるのは、世界にたった一人しかいない。

彼女の夫だ。

彼女の好き嫌いをすべて把握している、唯一の人物。

立花柚月は不動産の権利書を手に、呆然としていた。

父が遺した荷物...

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