第160章

九条裕也の森閑とした声が、左手側から落ちてきた。

黒いトレンチコート姿。風に追われるように駆けつけたのだろう、肩口にまだ外の冷気が残っている。

「澪……遅くなった」

天城澪の隣に立った瞬間、彼の体温はどこか冷たかった。

澪は顔を上げ、九条裕也をじっと見た。

近づいた男から、凛とした清潔な匂いに混じって、酒の気配がする。

それから――女物の香水。

考えるまでもない。外川絢那の匂いだ。

澪が言葉を失っていると、九条裕也は軽く腕を回し、抱き寄せるようにして低く言った。

「この件は俺が片をつける」

だが澪は、その言葉をまるで耳に入れていなかった。

冷えた声で言い放つ。

「裕也...

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