第32章

天城澪は慎重に考えた末、こう結論づけていた。――結婚の件は九条家にひと声入れてもいい。けれど仕事のことだけは、私は私の力で勝ち取らなきゃいけない。

でないと、自分が積み上げてきた努力まで、全部「誰かの力で手に入れた」と歪められてしまう気がした。

九条裕也はまぶたを伏せ、瞳の奥の暗さを隠す。

結婚した。これで、俺には“名分”ができた。

……だからこそ、追い詰めすぎるな。

「いい。今夜は九条家の家宴だ。俺と一緒に出る」

「こ、今夜?」

天城澪の顔がまた強張った。何もかもが、まるで八百倍速で進んでいるみたいだ。

息をつく暇すら、ひとつも残してくれない。

いま、もう午後5時。

し...

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