第35章

天城澪ははっと顔を上げた。もう仕事が終わったのだと思い、驚いて聞き返す。

「……これ、私に?」

「うん」

九条裕也の返事はそっけない。なのに、その一言だけで胸の奥が小さく揺れた。

テーブルいっぱいに並ぶ、見た目も可憐で繊細なムースケーキ。どれも彼女の好きな味ばかりで、最初から視線を奪われていた。

けれど、まさか自分のために用意されたものだなんて。

嬉しさがじんわり広がる一方で、少しだけ気恥ずかしい。

理由を聞きたかった。けれど、天城澪は結局飲み込んだ。

婚姻届まで出している。彼が彼女に気を配るのは、今さら不自然でもない。

そう自分に言い聞かせ、何でもないふりをして一つ手に取...

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