オオカミは知っている
ダクソン・ストームクロウ視点
あれは普通の狼じゃなかった。そして、あれは間違いなく、俺が知っていると思っていたエロウェンではなかった。
俺は影の中に立ち尽くしていた。心臓はまだ、戦いを終えた直後のように激しく脈打っている。目が焼けつくようで、肌が粟立ち、頭蓋骨の内側から、外に出たがっているかのように俺の狼が爪を立てていた。「言えよ」と狼が唸る。「お前は彼女を見た。彼女を感じた」
だめだ。俺はその考えを無理やり押し殺した。締め出す。あれは彼女じゃない。ありえない。彼女の狼は茶色のはずだ。小さくて、取るに足らない。ベータの血筋で、ガンマに育てられた。待て、彼女の父親はアルファじゃなかったか? 一体どうなってやがる。あれは……違う。銀色の毛先を輝かせ、雪を纏った女神。まるで動く月光のように森を駆け抜けていく、あの存在では断じてない。
俺は髪に手をやり、何かに取り憑かれた男のように森の縁を行ったり来たりした。一体俺に何が起こっているんだ? 「彼女は我々のものだ」と、俺の狼が今度はもっと強く、しつこく唸った。
「黙れ、タロン」俺は声に出してそう言い放ち、誰かに聞かれるかもしれない場所でその名を口にしたことを即座に後悔した。
タロン。俺の狼。俺より年上で、俺より強く、俺が望む以上に物事を確信している。
そして今、タロンは確信しきっていた。俺の妹にタックルをかまし、俺が存在しているというだけで喉笛を掻き切らんばかりに唸るあの女、エロウェン・スカイ・ソーンが、俺たちの真の番だと。運命の。魂で結ばれた相手だと。
ありえねぇ。俺は車高を上げたピックアップトラックに軽々と乗り込み、エンジンをかけた。「あいつは不愉快だ」と俺は呟いた。「人の話を聞かない。決して服従しない。態度の悪さを皮にまとった混沌そのものだ」
「彼女は我々のものだ」
「違うと言っている!」
クラクションが鳴り響くほど強く、ハンドルに手のひらを叩きつけた。人々が振り返る。
どうでもよかった。肌がむず痒く、本能が暴れ回っている。そして最悪なことに……まだ彼女の匂いがした。野の花と嵐と危険が混じったような、あの馬鹿げた香りが、そこら中に漂っていた。
タロンが低く唸った。「自分に嘘をついている。絆が疼き始めるのを感じたはずだ」
「疼いてなどいない。しゃっくりが出ただけだ。誤作動だ。クソみたいな発作を起こしただけだ。あれは絆なんかじゃない。事故だ」
「あれは運命だ」
俺はダッシュボードを殴った。沈黙。それからタロンが、どんな嵐よりも深く俺を凍りつかせる言葉を囁いた。「お前は彼女を恐れている」
その一言は、あまりに深く突き刺さった。奴が間違っていなかったからだ。俺は彼女の強さを恐れているわけじゃない。口の悪さも。片手で俺の妹を打ち負かすことができるという事実も。
俺は、彼女が俺に及ぼす影響を恐れていた。
彼女を見たときに、何かがねじれ、古く、原始的で、永続的な何かが動くのを感じた、その意味を恐れていた。もし彼女が俺のものになったら……すべてが変わってしまう。
そして俺は、それを望んでいると認める準備がまだできていなかった。まだ。
エロウェン視点
私は地獄から抜け出した蝙蝠のように車を飛ばした。タイヤが砂利を跳ね上げ、パンクロックが鼓膜を破るほどの大音量で鳴り響いていたが、それでも私の気持ちを落ち着かせるにはまったく役立たなかった。
「あの自信過剰なクソ野郎」私はハンドルをさらに強く握りしめ、唸った。「私を追いかけて、追い詰めて。家紋付きのタマでもぶら下げてるつもりか知らないけど、答えを知る権利があるみたいな顔して」
奴の忌々しい狼、タロンとやらは、駐車場でのあの自信満々な演説がセクシーだとでも思ったのだろう。
教えてやるわ、ダクソン・ストームクロウ。あんたはヒーローなんかじゃない。あんたのせいでこっちはセラピーが必要なんだよ。
木々が途切れて我が家へと続く砂利道が見えてくると、ぼやけていた道がはっきりした。運転中ずっと、リシラは不気味なほど静かだった。
それは奇妙だった。怪しい。落ち着かない。私は目を細めた。「何?」沈黙。
「リシ」と私は吐き捨てた。「この一週間、ずっと人の顔を引っ掻いてやるとか叫んでたのに、今になって何も言うことがないわけ? あれだけのことがあった後で?」
彼女はため息をついた。ため息? 一体全体、月の女神に誓ってどういうこと? 「わたくしは……考えているの」
私は急ブレーキをかけた。トラックは路肩でガクンと停まった。
「あんたは考えない」私はシューッと威嚇するような声を出した。「唸って、脅して、頭に浮かんだ衝動的な考えを、まるで生皮でも噛むみたいに味わうだけ。だから、さっさと吐きなさい」
再び、間。それから、おずおずと、ほとんど聞こえないくらいか細い声が響いた。「……あの人、私たちのメイトかもしれない」
その後の沈黙は、穏やかなものではなかった。世界の終わりのような沈黙だった。「……は?」
「ただの囁き。引かれる感じ。あの人に掴まれた時……視線が絡み合った時……運命が、骨の髄まで動いているような感じがしたの」
「リシラ!」
「怒鳴らないでよ、絆を結んだのは私じゃないもん!!」
「あいつはシックスパックのついた歩く危険信号よ。私たちのこと、踏んづけた狂犬か何かみたいに扱うじゃない!」
「それは、あの人のトラウマがそうさせてるのかも」
「先月の訓練で、私にアルファ・コマンドを使おうとしたのよ」
「ええ、確かに、あれはクソみたいにタチが悪かったけど……でも、すごくいい匂いがするんだもの」
私はハンドルにこつん、と頭を打ち付けた。「ない。ありえない。こんなのごめんだわ。あんな神様気取りで女嫌いの王族のクソ野郎に、インプリンティングなんて絶対しない。感情さえ切り裂きそうな鋭い顎のラインをしてるからって、そんなのありえない」
「でも、もしそうだったら?」彼女は囁いた。「もし、あの人が私たちの相手だったら?」
私は再び車を走らせた。速く、無謀に。アクセルを思い切り踏み込めば、運命からだって逃げ切れるかのように。だって、ダクソン・ストームクローが私のメイトだなんて考えは、ただ都合が悪いだけじゃない……今年一番、恐ろしい考えだったから。
家に帰り着く頃には、私の血圧はまだ成層圏のどこかを彷徨っていた。
ダクソン・ストームクローのクソったれと、私の狼の感情的な裏切りのせいで神経がささくれ立っていたし、キッチンに入るとマリアとエロンがすでにテーブルについていて、それは全く気休めにならなかった。
「食事、まだ温かいわよ」マリアは紅茶から目を上げずに言った。「座りなさい」
私は感謝とも呪いともつかない言葉を何か呟き、彼らの向かいの椅子にどさりと腰を下ろした。ローストした鹿肉とハーブポテトの香りが部屋に満ちていたが、私の胃はまだ宙返りを繰り返している。私は皿をつついた。
エロンが咳払いをした。「今日の件は聞いたぞ。ヴァエラとのことだ」
来たわね。私はゆっくりと息を吸い込んだ。「訓練中にあの子が私に足をかけようとしたの。私は攻撃してない。立ち去っただけ」
「世間の噂は違うようね」マリアは平坦な声で言った。
私は歯を食いしばった。「で、今回は一体なんて言われてるわけ? 私がドラゴンにでも変身して、ジムを焼き払ったとでも?」
エロンが私に視線を送る。その口の利き方に気をつけろ、小娘、とでも言うような目つきだ。
「いずれにせよ」と彼は言った。「気をつけなければならん。王女たちはお前と対等ではない。彼女たちを挑発するな」
私は彼を凝視した。フォークが宙で止まる。「今、なんて? 十三の頃から私をいじめてる相手を、挑発するなって言ったの?」
マリアがカップを置いた。「公平さの問題じゃないの。生き残るための問題よ」
私は椅子を後ろに押しやり、立ち上がった。「そうね。もちろん。頭を低くしてろって。波風を立てるなって。私が明らかに脅威なのに、そうじゃないフリをしろってことでしょ」
エロンが片眉を上げた。「自分が脅威だと言っているのか?」
「言ってるのよ」私は言い放った。「もうそうじゃないフリをするのはやめだって」
そう言い捨てると、私は踵を返し、二階へと駆け上がった。こぼすまいと堪えていた涙が、鋭く目に染みるのを無視して。シャワーは、少しだけ助けになった。熱いお湯は祝福のようでもあり、呪いのようでもあった。凝り固まった筋肉をほぐし、頭の中の混沌を鎮めてくれる一方で、思考のためのスペースも作り出してしまう。
ダクソンのこと。そしてリシラのこと。彼女はまだ私の意識の奥で丸くなり、何かが切れるのを待つ捕食者のように、静かに物思いに沈んでいた。私は体を拭き、着古したタンクトップとスリープショーツを身につけ、ベッドに潜り込んだ。部屋は暗く、窓の周りに刻まれたルーン文字が放つ柔らかな青い光だけが灯りだった。
平穏。今のところは。私はナイトスタンドの時計に光る数字に目をやる。午後十時半。私はそれを見つめ、息を呑んだ。マジか。真夜中には、私は十八歳になる。
公式に、成人の年齢。メイトを見つけられる年齢。全力でシフトできる年齢。そして、部屋の隅でまるで呼吸しているかのように鎮座する、あの箱を開けることができる年齢。
私の人生が永遠に変わるまで、あと二時間。
そして、その覚悟が自分にできているのか、私には全く分からなかった。
