第4章

 ここ数日、アラリクはエレナと一緒に島で過ごしていた。だが、どうにも落ち着かなかった。

 血の契約を通じて、何度も私に手を伸ばした。けれど返ってくるのは、白紙みたいに空っぽで、不気味な虚無だけだった。

 エレナも、それに気づいた。

「ねえ、またぼんやりしてるの?」

「彼女のところにこっそり戻ろうとしてるんじゃない?」

 アラリクは眉をひそめ、込み上げる苛立ちを無理やり飲み込む。

「ずっとお前と一緒にここにいただろ。」

 以前の彼は、エレナといるのは気楽だと言っていた。

 だが、何かが変わってしまった。

 ほんの一分でも彼女の視界から外れれば――たとえばバルコニーに出ただけでも――エレナはすぐに追いかけてきて、どこへ行ったのかと詰め寄った。

 そのうち、息が詰まるようになった。

 妊娠のせいだ、ウルフズベインの発作のせいだ。エレナがこんなにも執着するようになったのはそのせいだ――そう自分に言い聞かせた。だが、その落差がどれほど鋭いかを知っているのは、彼だけだった。

 なぜなら、私はいつだって静かだったから。

 彼がどこへ行くのか、問いただしたりしない。何度も電話して帰ってこいと呼びつけたりもしない。彼が振り返れば、私はいつもそこにいて、黙って待っていた。

 その比較が目の前にあるせいで、彼は私のことを考えずにはいられなかった。

 その夜、アラリクは島のレストランでエレナと夕食をとっていた。

 食器を渡そうとして、何も考えずに口をついて出た。

「アリア、それ取って――」

 空気が凍りついた。

 エレナは目の前の皿をひっくり返した。

「あなた、私だけが心の中にいるって言い続けてきたじゃない! それなのに、どうしてまだ彼女の名前を呼ぶの? 彼女のことが好きなの?」

 アラリクはただ、こみ上げる苛立ちを飲み込み、何度も何度も彼女を安心させるしかなかった。自分はアリアに恋などしていない、と。

 だがエレナは引かなかった。妊娠と、ウルフズベインの発作を盾にして、泣き叫び、喚き散らし、テーブルの上で薬を叩きつけて壊した。

 そして銀を混ぜ込んだ抑制剤の入った小瓶をつかみ、彼に突きつけた。

「本当に気持ちが変わってないって言うなら、これを飲んで忠誠を証明して!」

 アラリクの瞳に、昏い暴力的な光が一瞬走った。だが彼女を落ち着かせるため、それでも小瓶を受け取り、無理やり飲み下した。胃の奥を灼くような吐き気を催す痛みを、無視して。

 エレナを落ち着かせて寝かせると、アラリクは踵を返し、ほとんどすぐに家へと駆け戻った。

 だが玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたものに心臓が跳ね上がった。

 正面の壁に、あの結婚の肖像写真が掛けられていた。

 アリアに隠れて、エレナと密かに撮った、あの一枚。

 いつかこの部屋にその写真を飾ったらどんな気分だろう――彼は何度も想像していた。

 だがいま実際に、それがそこにある。誰の目にもさらされる形で堂々と飾られている。その事実が恐ろしくて、彼はよろめきながら数歩後ずさった。

 アラリクの目が血走った。彼は壁に飛びつき、肖像を引き剥がし、扉へ叩きつけて粉々にした。

 荒い息のまま振り返ると、テーブルの上に置かれているものが目に入った。

 血の契約解除書。

 そして、伴侶の指輪。

 二つは並べて置かれていた。

 全身から力が抜け、背骨を引き抜かれたみたいに、彼は床へ崩れ落ちた。

「アリア……どうして、お前ひとりで契約を終わらせられるんだ……」赤く染まった目で、彼は呟いた。

「俺がお前を救った光だって言っただろ。ずっと俺についていく、二度と離れないって言ったじゃないか……」

 かつて私は、本気でアラリクを自分の人生に差し込んだ唯一の光だと思っていた。

 私が死にかけていたあの夜、彼は神みたいに舞い降りて、死体の山の中から私を引きずり出してくれた。

 彼に抱いた気持ちは、命を救われたことへの感謝が半分で、残り半分は確かな恋だった。

 私は心臓にいちばん近い血を彼に捧げた。彼が私を救ったのなら、きっと永遠に守ってくれる――そう信じられるほど、私はあのとき必死だったのだ。

 だが、あの冷え切った声を聞いてしまった。

「必要なら血を抜ききれ。あいつはどうせ痛みも感じない」

 そして、別の女のために用意された結婚の肖像写真と、それに添えられた誓いの言葉を見てしまった。

 そのとき、ようやく理解した。

 彼が私に与えたのは、愛でも庇護でもなかった。

 計算だ。搾取だ。私が持つものすべてを、ゆっくりと、容赦なく使い尽くすための手段だった。

 ちょうどそのとき、玄関のチャイムが鳴った。

 アラリクは、最後の希望にでもすがるみたいに身を動かした。

「アリア、頼む、話を――」

 彼は扉を乱暴に開け放つ。

 そこにいたのはアリアではなかった。

 メイドだった。

 両手でトレーを抱えて立っている。

「これは何だ?」アラリクはそれを見つめて尋ねた。

「ご存じありませんでしたか?」メイドが言う。

「少し前に奥様が、これからは旦那様のためにブラックチェリーの血酒を用意するよう、厨房に特別に指示なさったんです。人間の血は混ぜません。旦那様のお好みどおりに」

 それから彼女は、封のされた箱を開けた。

「それに、奥様は温室で夜咲きの花を、ご自身で育てていらっしゃいました。お帰りになった瞬間に香りを嗅げば、血の渇きが落ち着くはずだと。開花の時刻まで合わせて」

 アラリクが、澄んだ血酒と咲き誇る花を受け取った瞬間、体の奥の何かがすうっと冷えていくのを感じた。

 彼はただ一度、外の血酒は汚い、と何気なくこぼしただけだった。

 その一言をアリアがここまで真に受けて――黙って専用の供給を整え、花がちょうどいい時間に開くように計算までして、すべてを彼のために用意していたなど、思いもしなかった。

 それに比べてエレナはどうだ。

 銀を混ぜた抑制剤を何度も何度も押しつけ、「気持ちが変わっていない証拠に飲め」と迫った。

 そのたびに、彼は気分が悪くなった。

 結局、愛とは何か――血酒の一本と花一輪が、痛いほどはっきりさせてしまった。

 メイドは彼の肩越しに室内をのぞき込んだ。

「旦那様、奥様はどちらへ? ここ数日、お姿をお見かけしませんが……」

「数日したら戻る」アラリクは乾いた声で言った。平静を保つので精一杯だった。

「ああ、それはよかった。奥様、領地の混血の見習いたちに二週間、夜の授業を無料でしてあげるって約束していらしたんです」

 メイドの目に、哀れみと敬意が滲んだ。

「奥様があの子たちにどれほど辛抱強く向き合っていたか、旦那様はご存じないでしょう。何かを償おうとしているみたいでした。以前、目を真っ赤にして私におっしゃったんです。子どもを持てないことが人生最大の心残りだって」

 それを聞いた瞬間、アラリクはぐらりと揺れた。

 自分は何をしてしまったのか。

 三年前、彼はアリアに嘘をついた。彼女の子宮に寄生虫がいるのだと。

 そして瞬きひとつせず、二人の子どもを、汚物でも扱うみたいに取り除かせた。

 罪悪感が、一気に襲いかかってきた。

「俺は……何をしてしまったんだ……」

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