第3章
ロッコは、自らの手で私をヴィクトルに引き渡した。
ヴィクトルの手下の男たちが私の両脇を固め、後続の黒塗りのSUVへと乱暴に押し込む。四十分の道中、誰一人として私に口を利く者はいなかった。
車列が止まったのは、灰色の無機質な建物の前だった。車から引きずり下ろされたとき、初めてロッコもついて来ていたことに気づく。彼はマイバッハの車体にヴィクトルと並んで寄りかかり、差し出された葉巻を受け取っていた。二人は悠然と紫煙をくゆらせ、時折低い声で言葉を交わす。ロッコがふと見せた笑み――極めて淡く、ほんの一瞬のことだったが、私の目には残酷なほど鮮明に焼き付いた。
葉巻が燃え尽きる。ロッコは袖口の灰を払い、ヴィクトルの肩をポンと叩くと、車に乗り込み、来た道を引き返していった。最初から最後まで、私を一顧だにすることなく。
背後で、重厚な鉄扉が閉ざされた。
ヴィクトルが目の前で立ち止まり、私を見下ろす。彼は知らないのだ。私がアレッシアであることを。目の前にいるのが、自分の物を盗んで二年前に姿を消した女――キアラだと思い込んでいる。
「物はどこだ?」
彼は口を開いた。声のトーンは決して高くない。だが、その一言で地下室の気温が氷点下まで下がった錯覚を覚えた。
「ブラッド・ダイヤモンド、暗号書、そして亡き妻の指輪だ。……どこに隠した?」
彼が何を言っているのか、皆目見当がつかない。キアラが何を盗んだのか、誰も私に教えてくれなかった。ロッコも、父も言わなかったし、キアラが言うはずもない。私は目隠しをされたまま、不条理な断罪の場へと放り込まれたのだ。
「……知りません」
ヴィクトルの表情は変わらなかったが、瞳の奥を覆っていた氷が砕け散った。彼は上体を屈め、私の顔を覗き込む。冷たく鋭利なコロンの香りが鼻をつく距離だ。
「ロッコの顔に免じて、一度だけチャンスをやる」
そう言うと、彼は口元を歪めて嘲るような笑みを浮かべた。
「渡せ。……それにしても、いい度胸だ。実の妹の夫と寝るとはな。ヴィターレ家の面汚しめ」
唇が震えた。私はキアラではないと言おうとした。けれど、ロッコが自ら私をここに送ったのだ。両親だって私が消えることを望んでいる。誰も私が生きて帰ることなど期待していない――ここで死んでくれればいいと思っているのだ。なら、私がここで死ねば済む話だ。今さら弁明して何になる?
「本当に……知らないんです」
ヴィクトルは上体を起こし、顎で部下たちに合図を送った。
「言いたくないそうだ。思い出させてやれ」
最初の三日間は、精神的な拷問だった。
窓のない地下室。時間の感覚は尋問の間隔だけで測るしかない。男たちが入れ替わり立ち替わり現れ、同じ質問を繰り返す。「物はどこだ?」私は同じ答えを返す。「知りません」そのたびに平手が飛ぶか、髪を鷲掴みにされて顔を天井に向けられ、直視できないほど眩しい裸電球を見せつけられる。食事は与えられず、水だけが少量与えられた。それは慈悲ではなく、意識を繋ぎ止めるため――気絶してしまえば、痛みを感じさせられないからだ。
ヴィクトルは時折、自ら様子を見に来た。手は出さない。ただ足を組んで向かいに座り、煙草を吸いながら、骨の髄まで凍りそうな冷徹な視線を私に向けてくる。罠にかかった獣が自ら足を食いちぎるのを待つかのように。
四日目、本格的な拷問が始まった。
背中に鞭が唸る。痛みは線ではなく、面となって焼き尽くす炎のようだった。皮が裂け、肉が裂け、滲み出した血がシャツを傷口に張り付かせる。風が吹くだけで新たな激痛が走った。悲鳴を上げまいと唇を噛み切ったが、腕に煙草の火を押し付けられた瞬間、ついに絶叫が漏れた。皮膚が焦げる異臭が密閉された地下室に充満し、いつまでも鼻について離れない。ヴィクトルは終始部屋の隅に立ち、両手をポケットに突っ込んだまま無表情で眺めていた。部下が判断を仰ぐために手を止めたときだけ、彼は口を開く。
「続けろ。あまり早く死なせるなよ」
六日目、彼は趣向を変えてきた。
椅子に縛り付けられ、瞼を粘着テープで強制的に見開かされる。目の前のモニターが明るくなり、映し出されたのは――キアラとヴィクトルの情事の映像だった。画面の中の女は私と瓜二つの顔で、媚びるように笑い、ヴィクトルと絡み合っている。
「よく見ろ」
彼はモニターの横に立ち、毒を孕んだ声で言った。
「これがふしだらなてめえの正体だ。思い出せないか? 手伝ってやる」
「私は……」
言いかけた言葉は、左脇腹で炸裂した激痛にかき消された。枯れ枝を折るような鈍い音がして、肋骨が一本、また一本と砕けていく。テープで固定された瞼の下から涙が溢れ出した。痛みだけではない――あまりの理不尽さに涙が出たのだ。私は自分と同じ顔をした女の身代わりとして、彼女の罪をすべて背負わされている。当の彼女は今頃、家の柔らかいベッドに寝そべり、誰からも愛され、守られているというのに。
七日目、私は地下室から放り出された。
正確には、ロッコが三つの裏カジノと引き換えに私を買い戻したのだ。その取引がいつ成立したのかは知らない。もしかすると、ここへ来る途中のマイバッハの中で、すでに私の値段は決まっていたのかもしれない。
家に引きずり込まれたとき、私の背中は鞭の痕で地図のように刻まれ、両腕は火傷の痕で覆われ、肋骨は三本折れていた。呼吸をするたびに、砕けた硝子を飲み込むような痛みが走る。
私の惨状を目にしたロッコの顔色が変わった。心配ではない。激怒だ。
「ヴィクトルに何を言った? 火に油を注いだのか! 奴がキアラの件をブレナン家にばらしたせいで、向こうから婚約破棄を突きつけられたぞ――自分がどれだけの失態を犯したか分かっているのか!」
答える気力もなかった。
騒ぎを聞きつけた両親が駆けつけてくる。母の視線が、私の身体を冷ややかに舐めるように一巡した。
「あんた、ヴィクトルに殺されてたらどうするつもりだったの?」
母は金切り声を上げた。
「キアラの治験は誰が受けるのよ? あんたが死ぬのは勝手だけど、キアラはどうなるの!」
「キアラのためじゃなかったら」母の声は鋭く、冷え切っていた。「ロッコが三つものカジノを犠牲にしてあんたを取り返すわけないでしょ! カジノ三つよ! あんたの命にそんな価値があるとでも思ってるの?」
私はドア枠に寄りかかっていた。折れた肋骨がナイフのように肺を突き刺しているが、誰も手を貸そうとはしない。
その時、父が電話を受けた。通話を終えた父の顔に、久しぶりに見る満面の笑みが広がる。
「朗報だ! ラボの方で確認が取れた。一週間後には治験を開始できるぞ!」
母は瞬時に怒りを収め、歓喜の表情でキアラの手を握りしめた。
「よかったわね、キアラ。それですぐによくなるわ」
一週間後には、未知の薬物が私の体に注入される。キアラが回復するための踏み台として、安全性を検証するために。そして私に残された命は、あと一ヶ月もない。
ふと、生まれた日のことを思い出した。先に生まれたのはキアラだった。その泣き声は高らかで澄み渡り、ちょうどその時、一族に大きな商談が舞い込んだため、皆が「この子は幸運をもたらす」と喜んだという。
十五分後、私の番が来た――分娩室が停電し、完全な闇に包まれる中、母は大量出血で心停止した。私は産道に詰まり、出てこられない。医師に引きずり出されたとき、私は全身が青紫色で呼吸もなく、ただの死んだ肉塊のようだった。胸を一度、二度、三度と圧迫され、ようやく子猫のような弱々しい泣き声を絞り出した。母は手術台の上で三分間死に、無理やりこの世に引き戻された。
その日から、キアラは至宝となり、私は呪いとなった。
二十五年間、私も愛される価値があるのだと証明しようともがいてきた。けれど、もう疲れた。
まあいい。ようやく彼らの望み通りになれるのだから。
ただ、どうしても考えてしまう――私が本当に死んだら、彼らは悲しんでくれるだろうか? ほんの一秒だけでも。
いや、やめよう。愛されているかどうかなど、もうどうでもいいことだ。
治験の日はすぐにやってきた。
母は朝早くからキアラの手を取り、未来の計画を楽しげに語っている。
「病気が治ったら、お母さんがブレナン家なんかよりずっといい家柄を見つけてあげるからね」
キアラはその言葉を聞いて、チラリとロッコに視線を送った――その眼差しは短く、そして貪欲だった。言葉にされないある約束を確認するかのように。ロッコは何も言わず、視線を逸らすこともなかったが、ただ静かに伏し目がちになった。
父は上機嫌で宣言する。
「アレッシアを送り込んだら、我々はロッシ湾へバカンスに行こう。そこで吉報を待つのだ」
私はリビングの隅に立っていた。肋骨の包帯からはどす黒い血が滲んでいるが、誰も私を見ない。痛むかと聞いてくれる者もいない。彼らはすでに、どこのホテルに泊まるかの議論に花を咲かせている。
「もし、私が死んだら……」
口にした瞬間、自分でもその声が他人のもののように思えた。あまりにも軽く、平坦で、まるで騒がしいテーブルの上に舞い落ちた一枚の枯れ葉のようだった。
「あなたたちは、悲しんでくれますか?」
