第114章

開け放した窓から風が吹き込み、草花の匂いを運んでくる。やけに澄んだ、胸の奥まで洗われるような空気だった。

長い年月ののち、ネロは初めて気づいた。ニューヨークの黄昏は、こんなにも人を惑わせる。

ワイオミングから東部の短期研修へ――あの頃の幸福な日々は、記憶の中の花みたいに、十一年経ってもまだ香りを手放さない。

メリーランド州。砂漠を離れて一週間後。

郊外に建つ古びた建物に、ジェイスはタクシーを降りた瞬間、場所を間違えたかと思った。だが門番が身分証を照合し、無言で中へ通す。

廊下で案内を受け、ジェイスは壁の「手形」の誘導マークを追った。最初の手形には、誰かが大きな目を描き足していて、長...

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