第5章
双子星。東区で名の知れた建造物だ。正午の陽光を受け、ガラスと鋼の外殻がぎらぎらと輝き、直視できないほどの光を跳ね返している。ここが――アメリカ東部の犯罪統治、その中枢。州警察のセンタービル。
13時50分。アランは新しい同僚たちとともに、17階の会議室で待機していた。まもなく総局の上層代表が降りてきて、専案班の発足を告げる。
今回、彼らが抽出されたのは、専案特勤処の「独立部門」という体裁だった。内務の上役の説明を思い出し、アランは思わず苦笑する。
総局長が直々に決裁し、班の幹部も上層が任命した――と聞けば大層だ。
だが実態は、組織図も定員も曖昧で、専任の指揮系統すらはっきりしない。上の思いつきで走らせる試験運用に近い。大事件を専従で扱うと言いながら、寄せ集められたのは総局の古参官僚ばかり。実際に手を動かすのは、結局、下から引っ張り上げられた自分たち――いわゆる「中堅の精鋭」だ。
唯一の利点は、普段会えない「姿の見えない人間」に顔を売れること――昇進に繋がる、という噂。
だがアランは最初から期待していない。後ろ盾もない自分に、出世の梯子は滑りやすい。各段には権力者の子弟が目を光らせている。順番が回ってくるはずもない。
双子星はA棟とB棟に分かれ、18階以上は上層――「姿の見えない人間」たちの領域だ。エレベーターも別で、日常的に顔を合わせることはない。
アランは想像する。今頃、18階以上の連中がぞろぞろと降りてきて、二棟を繋ぐ長い回廊を渡り、この会議室へ向かっている光景を。
14時ちょうど。会議室の扉が押し開けられ、一団が列を成して入ってきた。壇上前に並ぶ。
アランたちは一斉に起立。誰かが挨拶を始め、拍手が起こる。
アランも手を叩きながら、列をざっと眺めた。先頭は腹の出た連中。中ほどに背の高い禿頭がいて、妙に威圧感がある。後ろには小柄で白髪混じりの男。
そして――最後尾。
見覚えのある顔があった。
髪は夜より短い。日光の下では、少し大人びて見える。だが、目の奥の落ち着きは同じだ。むしろ、昼の光の中では妙に冴えて見えた。
アランは息を呑む。
まさか。ここで?
――ジェイス。
会議室の全員が制服姿だった。アランたち現場組も、腹の出た官僚も。
ただ一人、その男だけが濃紺のスーツを着て、胸に身分証を下げている。隣の上官の話を聞きながら、柔らかく微笑み、参加者を見回していた。
本当に、ジェイスなのか。
アランは自分の目が信じられなかった。
だがその淡々とした目が、アランへ向く。
逸らさない。何の合図もないのに、確かに「気づいている」と分かる微笑。
司会の上官が順に紹介していく。名前は――ネロ? 役職は――。
アランは聞き逃した。拍手が起こる。
二人が話し、三人目が――ジェイス、いやネロの番だった。
声は静かで柔らかい。それでも、不思議と全員の耳に届く。
内容は簡潔だった。行政を含む各方面から支援すること、困ったことがあればいつでも自分に――。
今度は聞き取れた。
ネロは特勤処の執行責任者。腹の出た上層の男を補佐し、全案件の調整を直接担う立場だった。
