第6章

波の音が、私と彼の間の沈黙を埋めていた。腰まで海水に浸かったまま、夜の闇と肌を刺すような冷たさに包まれ、私は一歩も動けずにいた。このまま進むべきか、それとも踵を返すべきか、もう分からなかった。

夏目隆は、私の手の中にあるスマートフォンを、揺るぎない、冷静な眼差しで見つめている。そして次の瞬間、何の前触れもなく、彼は私の手からそれを奪い取ると、高く放り投げた。スマートフォンは夜空に優美な弧を描き、やがて漆黒の海面へと吸い込まれていった。

「あなた——」

私は目を見開き、信じられない思いで彼を見た。過去との繋がりも、私を苛んできた苦しみも葛藤も、そのすべてを道連れにして、彼は投げ捨て...

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