第7章
「夜子!」
母・幸子の悲鳴が、部屋の空気を切り裂いた。その目は真っ赤に充血し、震える手が、まるで幻を確かめるかのように私へと伸ばされる。
その瞳に滲む涙は、私が今まで一度も見たことのない、深い感情の色をしていた。
私は無意識に後ずさり、その手が触れる寸前で身をかわす。
「やめてください。……とても、不快です」
穏やかに、けれど氷のように冷たい響きを乗せて、私はそう告げた。
母の手は、見えない壁に阻まれたかのように宙で止まる。表情が強張り、堪えきれなくなった涙が頬を伝った。唇はわなないているのに、声にならない嗚咽が漏れるだけ。その姿は、極度の苦痛に歪んでいた。
かつて...
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