第122章 冷淡な妻

伊崎水穂は顔も上げず、デザイン画にペンを走らせたまま言った。

「契約に、そんな条項はないわ」

「でも俺たちは夫婦だろ!」

「名目上、ね」

その瞬間だった。

ひとりの男が現れた瞬間、片瀬大介の嫉妬が限界に達した。

氷上匡悟。外国の血を引く男。背が高く、端正な顔立ちで、所作のひとつひとつに品がある。

彼はよく家に来ては伊崎水穂と「仕事の話」をしていたが、大介には分かった。二人の間には、ただの取引相手では説明できない呼吸がある。

氷上匡悟が訪れるたび、水穂の表情が変わる。

大介が一度も見たことのない、柔らかさ。冷淡さは残っているのに、その奥に微かな温度が混じる――そんな顔。

「…...

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