第36章 戻ってきた

翌朝――御華のロビーは、約束どおりの時刻に扉を開けた。

楠田昭一は皺ひとつないダークグレーのスーツで現れた。こめかみには歳月の色がにじむのに、目の光だけは若いころ以上に鋭い。手にはレトロな革鞄。中身はこの数年で集めた生地見本と、描きためたデザインの手稿だ。

「昭一さん」

片瀬澄乃は朝からエレベーター前で待っていた。

楠田昭一は、すっと背筋の伸びた彼女を見た瞬間、目の縁が赤くなった。

「お嬢様……伊崎水穂様に、あまりにも似ておいでだ。俺はこの数年、ミラノとパリで揉まれてきた。昔みたいに好き放題される老人じゃない。……力を合わせりゃ、伊崎さんのものを必ず取り戻せます」

その会話に割り...

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