第70章 私の子供

片瀬奈菜はびくりとして半歩退いた。けれど小さな拳をぎゅっと握りしめ、泣かない。――もう一度「勝手に叩いちゃだめ」と言い返そうとした、その瞬間。

横から、小さな影が飛び出してきた。

片瀬奏太だ。

妹について出てきたあと、彼は少し離れた階段口に立って様子を見ていた。片瀬結希が手を上げたのを見た途端、コーチに教わった動きを思い出す。

小さな身体をぴんと張り、左手で片瀬結希の手首を押さえ、右手で肘を支える。体をひねる勢いを乗せて、軽く――押した。

まさか五歳の子どもにそんな力があるとは思っていなかったのだろう。片瀬結希はよろめいて二歩下がり、壁にぶつかりかけた。

驚きと怒りで顔を歪める。...

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