第84章 キス

ドアの前に立っていたのは、顔面が紙みたいに真っ白で、全身を小刻みに震わせる片瀬結希だった。

丹念に作り込んだはずの姿は、いまや歪んだ嫉妬と狂気に塗り潰されている。

さっきまで彼女は、扉の隙間から中を覗いていたのだ。瀧本知暁が片瀬澄乃の手をそっと包み込み、二人の間に甘い熱が漂う瞬間を――一部始終、目に焼き付けて。

「知暁! どうして私にこんなことするの! このクソ女よ! こいつがあんたを誘惑したんでしょ?! 六年前と同じ! 汚い手で、私のものを奪うことしかできないくせに!」

片瀬結希が現れた瞬間、片瀬澄乃の胸の奥で、押し込めていた反骨が火花を散らした。

そして彼女は、そこにいる二人が...

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