第85章 触れたことはない

片瀬結希は、警備員に腕を掴まれたまま瀧本グループ本社ビルの外へ引きずり出され、最後は乱暴に放り投げられた。

冷えきった地面にへたり込み、ビル最上階――瀧本知暁の専用フロア、その窓を見上げる。瞳の奥で、黒い憎悪が渦を巻いた。

――どうしてよ。

片瀬澄乃なんて、子どもを二人も抱えた女にすぎない。

それなのに瀧本知暁は、あの女のために本気で怒った。御華との提携を全部止め、挙げ句、自分を徹底的に潰すとまで言った。

理由はひとつしかない。

あの二人の子どもだ。

片瀬結希は拳を握りしめる。爪が皮膚に食い込み、痛みが走っても力を緩めない。

瀧本知暁は、片瀬澄乃が「子どもたちの母親」だと確信...

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