第89章 鎮静剤

片瀬和也は、伊崎大輝に寝かしつけてもらう必要なんてない。けれど、今ここに残っても足を引っ張るだけだと分かっていた。だから大輝のあとを追って二階へ駆け上がり、気遣うようにリビングの照明まで少し落とした。

リビングに残ったのは、片瀬澄乃と瀧本知暁の二人きり。

澄乃が一瞬ぼうっとした隙を突いて、知暁がぐいっと腕に力を込める。次の瞬間、彼女の身体はその胸に引き寄せられた。

熱い。焼けるみたいに熱い身体が密着し、濃い男の匂いと、かすかな酒気が一気にまとわりつく。

知暁は俯き、鼻先で彼女の髪のてっぺんを擦った。灼けた息が首筋に落ちる。

「澄乃……抱かせて」

声だけ聞けば、いじめられた子どもみ...

ログインして続きを読む