第2章

あの夜、私はとうとう一睡もできなかった。夜が明け、寝室のカーテンの隙間から光が差し込み始めた頃、私は眠るふりをするのを諦め、健太の穏やかな寝息を残して、そっとベッドを抜け出した。

それから数時間後、ブラインドの隙間から差し込む太陽の光が、居間にまだらな影を落としていた。息が詰まるような静寂だった。

眠れない夜と、空っぽの昼間。それが私の日常になっていた。もう三日連続で、一時間か二時間しかまどろめていない。目を閉じれば、いつでも絵麻の小さな顔が浮かんでくる。何杯ものコーヒーでどうにか意識を保ち、時折睡眠薬を半分だけ飲み下したが、頭だけは休むことなく回転し続けていた。

気づけば私はまた、閉ざされた子供部屋のドアの前に立っていた。ドアノブを握りしめながらも、それを回すことができない。そのドアの向こうには、私たちが絵麻のために心を込めて準備したピンク色のパラダイス――ベビーベッド、小さな洋服ダンス、そして決して鳴ることのないオルゴールが横たわっている。

「どうしてこんなに静かなの?」私は誰もいない廊下に話しかけた。「赤ちゃんの泣き声が聞こえるはずなのに……」

記憶が洪水のように押し寄せてくる――新生児集中治療室での最後の日々、絵麻の小さな心臓が欠陥と闘っていたあの頃の記憶が。そこには若い女医がいた。今まで一度も見たことのない人だった。自信に満ち、てきぱきと場を仕切っていたが、どこか他人行儀で、事務的な印象を受けた。

絵麻の容態が悪化したとき、健太は手術中だった。私は娘と、その見知らぬ女医と二人きりだった。

「森田奥様、心臓のお薬を調整する必要があります」彼女はプロらしい冷静さで言った。だが、絵麻の保育器に近づく彼女の手は、完全には安定していなかった。

私はその記憶を無理やり押しやった。絵麻の心臓の欠陥は遺伝性だと、そう言われた。自然なこと。誰にも防ぎようがなかった、と。

だが、あの夜何かがおかしかったという感覚を、なぜ私は振り払えないのだろう?

健太はますます仕事にのめり込むようになった。朝七時に家を出て、夜十時になってもまだ病院にいる。私たちの会話は、朝のキスとおやすみのキス、そして「今日はどうだった?」という儀式的な言葉だけの、必要最低限のものにまで減っていた。

午後三時、私の携帯が鳴った。

「今夜も遅くなる。病院で緊急手術が入った。君は早く寝てくれ」健太の声には疲労が滲んでいた。

「わかったわ。無理しないでね」私は機械的に答えた。

電話を切った後、天井を見つめながら考えた。本当にそんなに忙しいのだろうか。それとも、子供を失ったこの家から逃げ出しているのだろうか。

真夜中。私は居間で待っていた。暖炉の弱々しい炎と、テレビの青い光だけが私の話し相手だった。

鍵が回る音がして、健太が忍び足で入ってきた。

「まだ起きてたのか?」彼は近づいてきて、私の額にキスをした。

その瞬間、私は何かに気づいた。微かに甘い、病院の消毒液とは明らかに違う匂い。

「今日は誰と仕事だったの?」私は探るように尋ねた。

「いつものチームだよ。どうして?」彼はネクタイを緩めながら、少し戸惑ったように言った。

「新しい若い先生は?女の人で」

健太の動きが止まった。「恵美、何を疑っているんだ?」

「何でもないわ。ただ気になっただけ」私は無理に微笑んだが、心の中ではすでに、香水の匂い、逸らされた視線、そして彼が直接答えなかった質問をリストアップしていた。

翌日の午後、私はもうあのアパートの息の詰まるような静寂に耐えられなくなっていた。聞けない質問と、私を蝕む疑念で、胸が張り裂けそうだった。答えが必要だった。

国際友愛病院。私は「友人の見舞い」だと自分に言い聞かせたが、見慣れたそのドアをくぐるとき、手は震えていた。

目の前に白い廊下が伸び、足音とくぐもった会話が響き渡る。消毒液の匂いが記憶を呼び覚ます――健太と出会ったような美しい記憶もあれば、絵麻が逝ってしまったときのような打ちのめされる記憶もあった。

だが今日、私がここにいる理由は全く違っていた。

私は疑心暗鬼に駆られた妻として、場違いな廊下をさまよい、直接は怖くて聞けない問いの答えを探している。

気づけば、私は健太の領域である産科病棟の方へ引き寄せられていた。廊下に佇み、通り過ぎる人々の顔をくまなく目で追いながら、スマホをいじっているふりをする。心臓が肋骨を叩くように激しく鼓動した。

その時、彼女を見た。

真っ白な白衣をまとった若い女性が、私のそばをすべるように通り過ぎていく。艶やかな黒髪は、完璧なポニーテールに結い上げられていた。横顔だけでも、彼女がっとするほど美しいことがわかった――思わず息をのむような、気負いのない美しさだった。

胃がひやりと落ちる感覚がした。

今の人は誰?

もっとよく見ようと急いで後を追ったが、彼女はすでに角を曲がってしまっていた。不思議なことに、私が角にたどり着くと、廊下には誰もいなかった。

「すみません、今の若い女医さんはどなたですか?ちょうど通り過ぎていった……」私は通りかかった看護師を呼び止めた。

「どの方でしょう?当科にはたくさんの医師がおりますが……」看護師は困惑した表情を浮かべた。

「ポニーテールの、綺麗な方です。なんていうか……育ちが良さそうな。お金持ちのお嬢さんみたいな、そういう生まれつきのエレガントさがある感じの」

看護師は首を横に振った。「申し訳ありません、どなたのことか……若い女医は何人かおりますので」

でも、私にはわかっていた。あの女性、彼女の立ち居振る舞い、美しさ、あの自然な気品……彼女は間違いなく特別な誰かだ。私が決して馴染むことのできないやり方で、ここに属している誰か。

このまま帰るわけにはいかなかった。まだだ。

私は病院のカフェテリアに腰を下ろし、ガラス窓越しに廊下を観察した。頭の中の彼女の姿が、どんどん鮮明になっていく。

おそらく二十五歳くらいだろうか――私が初めて健太を追いかけていた頃と同じ年頃だ。でも、私が不器用で必死だったのに対し、彼女は楽々と優雅に振る舞う。私が彼の同僚たちとの会話でつまずいていたところで、彼女は彼らの世界にすんなりと溶け込んでいくだろう。

私は心の中で彼女の物語を組み立て始めた。彼女はT大医学部の卒業生に違いない――ほとんど確信していた。彼女の立ち居振る舞いには、医者の家系、おそらく三代目といった雰囲気が漂っていた。

近くの夫婦が、生まれてくる娘の名前について話していた。「美咲」と、女性がお腹をさすりながら言った。「知恵が咲くって意味なの」

美咲。その名前は、私の想像する彼女のイメージ――エレガントで、洗練されていて、時代を超越した――にぴったり合うように思えた。そうだ、心の中では彼女をそう呼ぼう。

私は、彼女が健太と並んで働き、同じ情熱で症例について語り合い、彼の世界を完全に理解している姿を思い描いた。彼女はきっと、私が……持ち得なかったような、知的な繋がりを共有するのだろう。

その考えに胸が締め付けられた。もし彼女がもう彼と一緒に働いていたら?もし彼の襟についていたあの甘い香りが……?

「それでも彼は私を選ぶだろうか?」言葉はかろうじて囁き声となって漏れた。「自分の子供さえ失った、この失敗作を?」

午後、私は彼女にまた会えないかと期待して、病院の中をさまよい歩いた。

夕暮れ時、私はエレベーターホールの隅に身を潜めた。医師たちが退勤を始め、廊下は人でごった返していた。

突然、健太の姿が見えた。彼は若い女性と話していた。

彼女だ!今日の午後の女性!

健太は、私が長いこと見ていなかったような輝きを目に宿して、彼女を見つめていた。二人は肩が触れ合うほど近くに立ち、世界の他のすべて――そして私も――を排除するような、見えない泡を作り出していた。彼女が話すときのかしげる首の角度、彼が耳を傾けるために身を乗り出す様子……まるで、知り合いの顔をした見知らぬ人たちを見ているようだった。

「わかっていた。いつかこういう女性が現れるって」

家に帰ると、もう自分を抑えることができなかった。

「今日、仕事から帰るときに誰と話してたの?エレベーターホールで」

健太はカバンを置きながら、当惑したように言った。「看護師ステーションの同僚たちかな。どうして?」

看護師ステーションの同僚?彼は嘘をついている。私ははっきりと、若くて美しい女医を見たのだ!

しかし、私は何も言わなかった。代わりに、彼がシャワーを浴びに行くのを待ち、コーヒーテーブルの上にあった彼の携帯を素早く確認した。「美咲」という名前はなかったが、他の痕跡があるはずだ。

水の流れる音を聞きながら、頭の中ですべてが明らかになっていった。

雨宮奥様の言葉が脳裏に響く。「森田先生なら誰とでも結婚できたのに……本物の医者の家系とね」

彼らは決して私を受け入れてくれなかった。そして今、健太の世界にいるこの完璧な女性を見て、ぞっとするような考えが形になった。

もしこれが、彼らが待ち望んでいたことだとしたら?誰かが健太に「正しい」選択肢――彼らの世界に属する誰か――を見つけてきたのだ。私を障害物とする、医者同士の政略結婚。

「私は、自分の子供さえ生かしておけなかったレストランの娘よ」私は自分に囁いた。「どうして彼女に太刀打ちできるっていうの?」

健太がバスルームから出てきたとき、私はすでにソファに戻り、本を読んでいるふりをしていた。しかし、私の決心は固まっていた。

証拠を見つけ出す。手遅れになる前に、この脅威を暴き出す。

どんな代償を払ってでも。

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