第4章

午前九時のラッシュアワーで、患者や見舞客が大勢押し寄せていた。だが、大理石の床を不安げに行ったり来たりする私の足音だけが、不自然なほど大きく響き渡っていた。

彼女を見つけなければ。答えを知る必要がある。

「すみません、水原美咲先生はどの科にいらっしゃるか教えていただけますか?お会いしたいのですが」私は声が震えないように努めながら、受付係に尋ねた。

デスクの向こうの女性は顔を上げ、戸惑いを浮かべた。「お客様、申し訳ありませんが、そのような名前の医師はおりません。お名前は確かでしょうか?」

心臓が沈む思いだったが、私は食い下がった。「いるはずです。若くて、とても綺麗な人で――有力な医者の家系です」

「申し訳ありませんが、そのお名前には心当たりが……」受付係の戸惑いは本物に見えた。だが、そんなはずはない。

そうだ。この手の情報を隠すように訓練されているのだ。私は背を向け、次の一手を決めかねたまま、病院の廊下をさまよい始めた。

その時、エレベーターの近くで二人の看護師が交わす会話の断片が耳に入った。

「……あの眼鏡をかけた研修医……」

「……父親が有力者で……」

「……特別扱い……」

眼鏡の研修医。脈が速まった。そうか――彼女は偽名を使い、無垢な研修医のふりをしながら、裏では実家のコネを最大限に利用しているのだ。

標的が定まった。私は再び病院の廊下をしらみつぶしに探し始めた。今度は眼鏡をかけた若い女医に的を絞り、スマートフォンで気づかれないように一人ずつ写真を撮っていく。

午後六時になる頃には、私は地下駐車場のコンクリートの柱の陰に身を潜め、健太が仕事を終えるのを待っていた。薄暗い照明と反響する足音が不穏な雰囲気を醸し出していたが、二人のやりとりをこの目で直接確かめなければならなかった。

銀縁の眼鏡をかけた若い女医と連れ立ってエレベーターに向かう健太の姿が見えた時、私は息を呑んだ。

「あの人だ。水原美咲に違いない」私はスマートフォンの録画ボタンを押しながら、そう囁いた。「見て、あの親密な様子――ただの同僚という関係では絶対にない」

「お客様、ここで何を?何かお困りですか?」警備員の声に、私はびくりとした。

心臓が喉まで飛び上がりそうだった。スマートフォンを落としそうになりながら、慌てて何でもないふりをする。「夫を……待っているんです。ここの医者で」

警備員の目がわずかに細められた。「どちらの先生でしょうか?お探しするお手伝いをいたしますが」

「森田先生です」私は手のひらに汗が滲むのを感じながら、どもるように言った。「森田健太。もうすぐ勤務が終わるはずなんです」

「左様ですか。でしたら、上の正面玄関ホールでお待ちになる方が快適かと存じます」

私は早口に頷くと、恥ずかしさで顔を熱くしながらエレベーターへと急いだ。手はひどく震え、ボタンをまともに押すことすらできなかった。

その夜、見た光景が頭から離れなかった。あの女の健太を見る目つき、二人の間の慣れ親しんだ空気――私の疑念がすべて確信に変わった。だが、遠くから見ているだけではもう足りない。彼女と直接対決する必要がある。

二日後、私は昼食ラッシュで賑わう病院のカフェテリアにいた。症例について議論する医師たち、サンドイッチを片手におしゃべりする看護師たち。私は部屋全体を見渡せる窓際のテーブルを選んだ。

そして、彼女を見つけた。

地下駐車場で見た、銀縁の眼鏡の女だった。隅のボックス席に一人で座り、医学雑誌を読んでいる。落ち着き払って、自信に満ちている。絵麻が死ぬ前の、かつての私のように。

怒りと絶望が入り混じった感情で胸が締め付けられた。この女だ――私の人生を少しずつ奪っていく女。

私は立ち上がった。椅子が床を擦る大きな音が響く。周りの楽しげなおしゃべりが、わずかに途切れた気がしたが、もうどうでもよかった。私はまっすぐ彼女のテーブルへと歩み寄った。

「あなたが水原美咲ね?」

彼女は驚いて顔を上げた。「すみません、人違いです。私は――」

「とぼけないで!」私の声は大きくなった。近くのテーブルの会話が、ぴたりと止まるのが分かった。「あなたが誰なのか知ってるのよ。私の夫、森田健太を奪おうとしているんでしょう!」

彼女の顔から血の気が引いた。「あの、本当に人違いだと思います。私はただの研修医で……」

「みんな嘘つき!」涙がこみ上げてくるのを感じたが、ここで崩れるわけにはいかなかった。カフェテリアの一角に突然訪れた静寂が、私の声を一層鋭く響かせた。「彼と一緒にいるところを見たのよ!写真だってあるんだから!」

「写真?」彼女の声がわずかに震えた。「あの、落ち着いてください――」

「私に指図しないで!」私はテーブルに手を叩きつけた。コーヒーカップがガタリと音を立てる。その鋭い音は、耳に入る範囲のすべての会話を凍りつかせたようだった。「娘を失ったのよ。今度は夫まで奪うつもり?」

カフェテリア全体が静まり返っていた。食器がそっと置かれるかすかな音や、新聞が下ろされる衣擦れの音が聞こえる。

「お客様、どうか落ち着いてください」警備員が私たちのテーブルのそばに現れた。「何か問題でも?」

「ええ、問題よ!」私は彼の方を向き、震える声で言った。「この女が私の結婚生活を壊してるの!そしてここにいる誰もが彼女をかばってる!」

若い女医は今や怯えきっていた。「ご主人のことなんて知りません。一度も――」

「嘘つき!」私は叫んだ。「一緒にいるのを見たって言ってるでしょ!証拠があるのよ!」

「お客様、ここからお引き取り願います」警備員は私の腕に優しく、しかし断固とした手つきで触れながら、きっぱりと言った。

カフェテリアを見渡すと、スマートフォンがこっそりと向けられ、目が合うと慌てて逸らされ、私たちのテーブルからさざ波のようにひそひそ話が広がっていくのが分かった。

「これで終わりじゃないから」私は震える若い女にそう囁き、警備員に連れ出されるがままになった。

病院の廊下を連行される間、普段の喧騒が私たちの周りで裂けていくようだった。ステーションにいた看護師たちはカルテから顔を上げ、見舞客は壁に身を寄せて私たちをやり過ごし、通り過ぎる先々でひそやかな会話が始まるのが聞こえた。

屈辱で顔が燃えるようだったが、その羞恥心の下で、激しい怒りが膨れ上がっていく。これで彼女は私に恥をかかせ、不安定な人間のように見せかけることはできるだろう。だが、この目で見た事実を消し去ることはできない。

駐車場で車に乗り込み、指関節が白くなるまでハンドルを握りしめて二十分ほど座っていた。対決は見事に裏目に出たが、少なくともこれで接触は果たした。私が監視していることを、彼女は知った。私が黙って消えたりしないことを、彼女は知った。

車を走らせて家に着く頃には、もう次の手を考えていた。一度公衆の面前で騒ぎを起こせば私が怯むとでも思っているなら、大間違いだ。

その夜の八時半、私はどうにか夕食の準備をした。照明の光が明るく灯っていたが、空気中の緊張を覆い隠すことはできなかった。

健太が慎重に口を開いた。「恵美、今日、病院に来てたって同僚から聞いたんだけど……誰かのことを尋ねてたって?」

私は即座に身構えた。「あなたに話したのね?ほら、やっぱり私が正しいってことよ――みんな彼女をかばってる」

「恵美、君が今日話しかけた女性は小松雪乃先生といって、小児科の研修医だ。彼女も水原美咲なんて名前は知らないって」

「小松雪乃?」私は乾いた笑いを漏らした。「今はそんな名前を名乗ってるの?ご都合主義にもほどがあるわ。偽名で身を隠すなんて」

健太は衝撃を受けた顔で私を見た。「恵美、何を言ってるんだ?」

私たちは初めて激しく口論した。彼の目には、戸惑いに加えて、今まで見たことのない種類の懸念が浮かんでいた。まるで赤の他人を見るような眼差しだった。

夜も更け、私は書斎に座っていた。あらゆる場所に印刷した写真と手書きのメモが散乱している。私は一枚一枚の写真に詳細な説明を書き込み、健太とあの女医の「密会」を記録したタイムラインを作成した。どの画像も、私がすでに知っていること――ここにはもっと深い何かが起きているということを裏付けているように思えた。

「この写真を見れば、二人の関係が異常なのは明らかよ」私は一枚一枚の画像を見るたびに確信を深め、独り言ちた。「今は偽名を使っているけど、本当は誰なのか、私には分かってる」

その夜遅く、健太が眠りについた後、私は暗闇の中でスマートフォンを取り出した。私的な調査がうまくいかないのなら、公に暴露してやる。誰もが彼女をかばうのなら、私が彼女の思い通りにはさせない。

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