第50章 彼がいなくても、彼女はとても幸せだった

風間爺さんの憂いぶりに比べれば、七海はどこか気楽だった。

毎日、医学書をめくっては技術を学ぶ。それだけの、静かな日々。

――もし、あの人がまだ生きていたら。

いまの七海を見て、きっと安心しただろう。

ようやく彼女は、あの人が望んだ通りの姿になれたのだから。

いま思い返せば胸がきゅっとする。それでも道は歩いてきた分だけ伸びるだけで、引き返す理屈なんてどこにもない。

そこへ松本海斗がやってきて、七海の隣に腰を下ろした。

途切れることなく医学の話を振ってくる。

最初は、こちらの出方をうかがうような基礎的な内容だった。けれど七海がすべて難なく答えると、松本は目を輝かせ、今度は難治の症...

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