第六章

【竹安言 視点】

 まだ啜り泣いている和沢雨子を一瞥し、俺はしがみついてくるその腕を煩わしげに振りほどいた。

 車内は空気が淀み、彼女が纏うきつい香水の匂いが、今の俺にはひどく鼻につく。

「言兄さん、どうして無視するの? あの小澤司にあなたが侮辱されるのを見て、私、心が張り裂けそうだったのに……」

 和沢雨子は梨の花が雨を帯びたようにしなしなと泣き崩れ、再び身体を寄せてこようとする。

「いい加減にしろ」

 俺は冷徹に言い放った。その眼差しに、普段人前で見せているような温厚さは微塵もない。

「和沢雨子、演技も大概にするんだな。あの婚姻届は、お前の姉を刺激するために画像を加工しただ...

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