第104章 温井水月の往事

清水若菜は、正直に言えば知りたかった。

さっき廊下で耳に入った断片だけでも、胸がざわつくには十分だったのだ。

けれど同時に、それが先生の私事だということも分かっている。

他人の傷を、好奇心でこじ開ける趣味はない。まして先生に、昔の傷口をもう一度えぐらせたくもなかった。

だから若菜は、そっと首を横に振る。

「先生ご自身のことです。……家族って、簡単に切れるものじゃありません。でも先生がそう決めたのなら、きっと理由があるんだと思います。私は、これ以上は聞きません」

木村教授は、かすかに口元を歪めた。苦い笑みが、喉の奥で鳴るような。

ソファに身を預けたまま、しばらく沈黙が落ちる。

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