第119章 わざと誘惑する

L市、五つ星ホテル。

名取賢次がスイートの書斎からリビングへ出た瞬間、足が止まった。

ソファに――いてほしくない女が座っていた。

温井有紗。淡いピンクのワンピースで脚を組み、赤ワインのグラスを指先で揺らしながら、にこやかにこちらを見ている。

名取賢次の眉間が、きつく寄った。

背後に控えていた秘書も呆然としている。温井がいつ入り込んだのか、まるで把握していない顔だ。だが彼は理解していた。ここに自分がいてはいけない、と。

秘書は無言で踵を返し、素早くドアを開けて出ていく。

ほどなく室内には、名取賢次と温井有紗の二人だけが残った。

「……どうしてここにいる」

名取賢次は低い声で問...

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