第33章 自分を彼女に差し出す

「誰も迎えに来なくて、清水さんひとりで帰られたそうです。送らなくていいって。タクシーで戻ると」

名取賢次の顔色が、一瞬で変わった。

彼は踵を返して病室を飛び出す。エレベーターへ早足で向かいながら、ボディガードに電話を入れた。

「お前ら、どこにいる。奥様が退院したの、把握してるのか」

受話口の向こうで、ボディガードが一瞬言葉に詰まった。気まずそうな声音になる。

「はい……ただ、奥様が『もうついてこなくていい』と。会社に戻るだけだから、って……」

「本人に言われたら、黙って引っ込むのか?」

名取賢次の声が、氷みたいに冷たくなる。

「万が一、彼女に何かあったら――絶対に許さない」

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