第49章 彼女はまた殴られた

翌日、清水若菜のもとに名取浩史から電話が入った。

「3億は多すぎる」

受話器の向こうの声は淡々として、温度がない。

「1億5000万だ。これが俺の最後の譲歩だ。今日の午後、来て離婚協議書にサインしろ。金はその場で振り込ませる」

清水若菜は窓辺でスマホを握ったまま、数秒だけ沈黙した。

「……わかりました」

午後。約束の時間に、彼女はあの茶席へ向かった。

前回と同じ個室。名取浩史は変わらず窓際の席に座っている。

卓上の紫砂の急須からは湯気が立ちのぼっていたが、今日は彼女のための茶は注がれなかった。

離婚協議書はすでに印刷済みで、3部。きっちり揃えて机に置かれ、その脇にサインペン...

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