第53章 妻は彼を愛していない

髪を乾かし終えると、名取賢次は身をかがめ、彼女をソファからそっと抱き上げた。

かすかな抵抗など意に介さず、そのままベッドへ運び、布団をきちんとかける。そうして自分も隣に横になった。

腕を彼女の首の下へ差し入れ、まるごと胸の中へ引き寄せる。顎は彼女の頭頂に触れた。

「少し眠れ。この数日、ろくに目も閉じてないだろ。このままじゃ身体を壊す」

清水若菜は眠れない、と言おうとした。けれど意思より先に、身体のほうが限界を認めていた。

彼の腕の中はあまりにも温かい。胸に頬を寄せれば、力強い鼓動がはっきり聞こえる。

その瞬間、張りつめていた疲労が潮みたいにいっせいに押し寄せ、あっという間に彼女を...

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