第71章 彼女の顔を立てない

温井有紗はその言葉を聞くなり、慌てて頬の涙をぬぐった。

助けを求めるように名取浩史へ視線を投げる。――これから自分は、どう立ち回ればいいのか。そう問いかける目だった。

名取浩史の眉間の皺は、さらに深くなる。

「父さん。有紗が来た以上、客だ。名取家は客を追い返すような真似はしない。そんなことが外に漏れたら笑いものだろ」

「それに、有紗はこの前、工事現場で賢次を助けて怪我をした。情も理もある。きちんともてなすべきだ」

名取誠彦が反論しようと口を開くより早く、名取浩史は椅子を引き、温井有紗へ座るよう促した。

「来た者は客だ。名取家に、客を粗末にする習慣はない」

名取誠彦は冷ややかに名...

ログインして続きを読む