第88章 あなたを失いたくない

清水若菜は一瞬きょとんとして、すぐに彼の言葉の裏にある意味を悟った。

耳まで一気に赤くなり、羞恥と苛立ちを滲ませて言い返す。

「……ねえ、もうちょっと真面目にできないの!」

名取賢次はむしろ楽しそうに、笑みを深くしただけだった。

千野教授や同僚たちに順に挨拶を済ませてから、清水若菜は名取賢次の後を追って車に乗り込む。

車はそのまま、まっすぐ二人の家へ。

玄関の扉を開けた瞬間、馴染んだ匂いがふわりと鼻先をくすぐった。張り詰めていた神経が、勝手にほどけていく。

――やっと、帰ってきた。

若菜が身をかがめて靴を揃えた、その背後で、バタバタッと急ぎ足の気配がした。

振り向く間もない...

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