第6章

怜真が玄関のドアを開けると、家の中は死んだような静寂に包まれていた。

「紗季?」

声を張り上げてみるが、虚しく響くだけで返答はない。

リビングは不気味なほど整然としており、ダイニングテーブルの上には小さな箱がぽつんと置かれていた。

怜真は歩み寄り、その箱を開ける——そこには紗季の結婚指輪が静かに横たわり、一枚のメモが添えられていた。

『手続きはすべて済ませました。家は譲ります』

たった短い一文。そこには怨嗟も、未練も、署名さえもなかった。

怜真はメモを握り潰し、寝室へと駆け込んだ。

クローゼットは空っぽだった。化粧台も、彼女が愛用していた小物も、何もかもが消え失...

ログインして続きを読む