第8章

救急車のサイレンが、ストックホルムの夜空を鋭く切り裂いた。

紗季は担架の上に座らされていた。腕には包帯が巻かれている。救急隊員がペンライトで彼女の瞳孔反応を確認し、脳震盪の兆候がないことを告げた。

「あなた、運がよかったわね。ただのかすり傷よ」

看護師の言葉に、紗季は無言で頷く。彼女の視線は、もう一つの担架へと向けられていた。

そこに横たわる怜真の顔色は、紙のように白かった。額の傷口からは、まだ血が滲んでいる。

酸素マスクが顔の大半を覆い、胸が激しく上下していた。

「こちらの男性は状態が良くない」

医師が看護師に低い声で指示を飛ばす。

「内臓出血の疑いがある。緊急...

ログインして続きを読む