第8章

由美視点

リビングの中央に、梨乃さんが立っている。視線は、亮と繋いだ私の手、それから、少し膨らんだ私のお腹へと注がれる。エレベーターのドアが閉まったのは数秒前なのに、その音はまだ耳の奥で響いている。

数秒間、誰も口を開かない。

「亮、私……」梨乃の声が震える。「結婚したって聞いたわ。でも、それはご家族が決めたことだって……二人が本気で、そんな……」

彼女の視線が、再び私のお腹に戻る。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「梨乃さん、俺たちに話すことは何もない」亮の声は平坦だ。彼が私の腰に腕を回す。

「三年前、家の事情で蒼海市に行かされたの」梨乃が唇を噛む。「あなたのことを愛さなくな...

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