第6章

銀座にある「松風」は、会員制の格式高い茶室だ。暖簾をくぐると、ほのかな抹茶の香りと白檀の薫香が漂ってくる。入り口に立った私は、出迎えた和服姿の仲居に「今宵は心夢様の貸し切りとなっております」と告げられた。

通された座敷には上質な畳が敷き詰められている。心夢は点前座に正座し、仕立ての良い着物を身にまとい、優雅な手つきで茶を点てていた。その客座には、同じく着物姿の女性が二人。見るからに投資界のエリートといった風情だ。

「華恋、来たのね」

心夢は顔も上げず、手にした茶筅に視線を落としたまま言った。

「着替えてちょうだい。今夜は伝統文化を体験しましょう」

仲居から地味な色合いの着物を渡され...

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