第106章

新谷寒季は冷たい壁にもたれ、寄り添い合う二人の背中が廊下の突き当たりへ消えていくのを見送った。

心臓を生きたまま引き裂かれたようで、血がじわじわと冷えていく。

絶望が黒い穴みたいに膨らみ、彼を丸ごと呑み込んだ。

M区、バカラホテルのプレジデンシャルスイート。

ドアが閉まった瞬間、松本彩世はヒールを乱暴に脱ぎ捨て、浴室へ駆け込むと「バン!」と扉を叩きつけた。

洗面の蛇口をひねり、温度を限界まで上げる。

熱湯が勢いよく落ち、両手と手首を焼くように流れていった。

足りない。まだ気持ち悪い。

さっき新谷寒季に抱かれたときの息遣い、体温――粘つく毒みたいに肌へまとわりついて離れない。

...

ログインして続きを読む