第110章

松本彩世は冷えた目で彼を見据えた。

「私たち、五年前にもう終わってる」

「終わってない! どうして終わってるんだよ!」

新谷寒季が声を荒らげる。彼は彩世の背後にいる松本青輝を指さし、息を詰めるように言った。

「調べはついてる。こいつは五年前の十一月生まれだ。彩世、お前が身ごもった時、お前はまだ俺の……法的な妻だった」

松本彩世の瞳が、わずかに細くなる。だが、何も言わない。

新谷寒季はその沈黙を、後ろめたさだと受け取った。

深く息を吸い、彼は一歩踏み込み、彩世のトレンチコートの袖口を掴んだ。声を落とし、まるで施しでも与えるかのような甘い調子に変える。

「彩世、分かってる。あの頃...

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