第112章

あれは――俺の息子だ! 新谷寒季の、紛れもない血のつながった子だ!

津波みたいな狂喜が、一瞬で新谷寒季を呑み込んだ。

胸の奥に五年も沈んでいた巨石が、粉々に砕け散る。

「彩世……」

新谷寒季は泣きながら笑った。顔つきはどこか病的で、熱に浮かされたような陶酔が滲んでいる。

松本彩世が姿を消したのは、妊娠に気づいた直後、松本凛の挑発を受けて心が折れたからだ。

だから彼女は子どもを連れて逃げた。死んだことにしてでも、スイスまで遠くへ行ってでも――産むと決めた。

もし彩世の心に俺がいなかったなら。もし本当に、俺を憎み切っていたなら。

子どもを下ろして、何もかも捨てて、やり直せたはずだ...

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