第113章

松本彩世が、彼女のすべてを奪った。

松本彩世が生きている限り、彼女に安息はない。

国境を越えた暗殺が通らないなら――今度はどうだ。松本彩世はいま、N市にいる。この土地の上にいる。

ここは、彼女の縄張りだ。

松本凛は、雨に濡れきったコートのポケットから、名義のない予備の携帯を引きずり出した。

手はひどく震えている。だが瞳だけは、捨て身の凶気に濁っていた。

彼女はQ区の地下ブローカーの番号へ、迷いなく発信する。

繋がった瞬間、耳をつんざくヘヴィメタルが流れ込んだ。

「……私よ」

松本凛の声は掠れ、地獄から這い出た悪鬼みたいだった。

「松本彩世がいまN市にいる。殺して。今すぐ、...

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